うぅ、早く決めなくちゃ……。
えっと、えっと……。

どうしよう……全然考えてなかった……。

何か頼まなくちゃって思っても、なぜがメニューに書いてある文字が、まったく頭に入ってこない。





「―――決まってないなら、このはちみつとオレンジガレットにしなよ」


……え?

顔を上げると、トワが頬杖をついたまま、あたしの手元を覗き込んでいた。


「ほらコレ。廉が作るオレンジソースは、ほんと美味しいから」


そう言って、長くてきれいな指が、メニューをトンとさした。
メニューには、こんがりときつね色に焼けたクレープ生地に、鮮やかなオレンジが乗ったガレットの写真があって。

ほんと……とても美味しそうだった。



「トワ……そんな事思ってくれてたの? 初耳っっ!」


手にしていた注文票で、ガバッと口元を覆い目を見開いた廉次さん。
その瞳は感激のあまりウルウルと潤んでいた。
そんな彼に、トワは少し不機嫌そうに目を細めて。


「……そんなのイチイチ言うわけないでしょ」


眉間にグッとシワを寄せたトワは、呆れたようにため息を零した。


「あはは。つれないね~。んじゃ、真子ちゃんはそれでいい?」

「あ、はい」


コクリと頷くと、廉次さんは「すぐ作るから待っててね」と厨房に戻って行った。