「はい。真子ちゃんどうぞ」


目の前に差し出されたのは、いつかのガレット。
出来たて熱々のガレットは、甘酸っぱい香りも一緒に連れてきた。



「わあ、ありがとうございます!」



ニコニコ顔の廉次さんからそれを受け取ると、同じように笑顔を返した。

カウンターでは、洋子さんが忙しなくお皿やグラスを運んでいる。
次々に運ばれる美味しそうなお料理を眺めて、廉次さんを見上げた。


「あの、今日は誘ってくれてありがとうございました」

「いえいえ。明日から夏休みでしょ?パーッとしなきゃね。パーッと!」


そう言って、さらにオレンジジュースを持たせてくれた。


両手がふさがったあたしに、廉次さんは顔を寄せる。


「ところで、トワとはもう?」

「ひゃっ」


まるで内緒話みたいに言われ、吐息がふーっと耳元にかかり違う意味で小さく飛び跳ねた。



「フフフ。顔、真っ赤、だ・よ」



楽しそうに、そう言って、廉次さんは人差し指であたしの頬をツン!と弾いた。

おまけにウィンクもされ、なぜか無性に恥ずかしくなった。



な!なんなんですか、廉次さん……そ、その魅惑のお顔!
何も答えることが出来ずに、ワナワナしてると背後の空気がピリリと変わった。



え?だ、誰?



ハッとしたあたしとほぼ同じタイミングで、廉次さんが苦笑いになる。



「いいか廉次、俺の前で俺の生徒にちょっかいかけるな」



あ……。