「今はドイツにいてね。彼をここに預けたまま、一度も日本に帰ってこないのさ。時々連絡は取り合ってるみたいだけどね。まあ、どちらかさ。トワの親のように育てる事を放棄してしまうのか、異常に執着して過保護になるのか」
そんな……。
「トワは、幼い頃にこっちに来たから、おかげでワシを本当の親のように慕ってくれてる。あんなでも、息子みたいに可愛いんだよ」
おじいさんは手を止めずに言った。
固まったままのあたしを見上げ、おじいさんはクシャリと笑みを零す。
「でも驚いたなあ、久しぶりに帰ってきたトワは、よう笑うようになった。ワシは君のおかげだと確信したよ~。今日のトワを見て、嬉しくて溜まらんかった。わはは!」
「へ?」
今日のトワ?
一度も笑ってませんけど……。
嬉しそうに笑うおじいさんを見たまま、ポカンとしてしまう。
「ほらほら!真子ちゃん手が止まっとるぞ。君はもううちの娘同然なんだから、ビシバシこき使うからな」
「ええっ」
包丁を握りしめたおじいさんが、イジワルく笑う。
うちの娘って……。
かあああって頬が熱くなるのを感じて、あたしは慌てて野菜に手を伸ばした。
「いや~青い青い」
「あ!ここにいたんだ、真子ちゃん。何してるの?お手伝い?」
無言で手を動かすあたしを探しにきた爽子が、キッチンに顔を出した。
「おじいさん!あたしもやりますっ」
「おう、それじゃあ米を洗ってくれるか」
「はーい!」
ビシッと手を挙げた爽子。
なぜかホッとして、あたしは息をついた。
早く、トワと話がしたいな……。