ぼんやりと松田君を見ていると、何か思い出したように松田君は頬杖をついて覗き込むようにあたしを見た。


「な、藍原はどうしたの?朝、一緒にいなかったね」

「ああ、今日は別。実はね?みんなで遊びに行った次の日、家に一旦戻るって言って、出て行っちゃったんだ」


初めて会った時、あたしを連れて行くまで帰れないとは言ってたけど、それを破っちゃうくらいの重要な事らしかった。

いったい、何があったのかな……。


「ふーん、そうなんだ。……、あぁ、そういや父さんに聞いたけど、藍原んちのじいさんあんま良くないみたいな」

「え?」



突っ伏していた体を思わず起こした。

そうなの?
トワ、そんな事一言も教えてくれなかった。



「藍原から連絡ないの?」

「え?」


そこで我に返って、松田君に視線を合わせた。


「まだ学校にも来てないみたいだしな」

「……」


そう言った松田君は廊下を眺めてから、窓から校門を見下ろした。

あたし達の席は、ちょうど窓際の一番後ろ。
人がまばらになった校庭には、あの空色の髪を見つけることは出来なかった。


キーンコーン
 カーンコーン




その時、予鈴が鳴って、とうとう校庭には誰もいなくなってしまった。


満開の桜の花びらだけが、チラチラと舞っていて。
なんだか無性に切なくなる。
なんだろ、この気持ち。


……トワ……。



「行ってみる?」

へ?

ぼんやりしてると、松田君が唐突にそんな事を言い出した。
わけがわからなくて、キョトンとしてると、松田君は悪戯な笑みを浮かべた。