「あ!見てみて!あっちはジュゴンだってえ」

「え?あっ……」


爽子?
いきなり腕を引かれて、ハッと我に返った。
あたしの腕を引っ張りながら、振り返った爽子はすごく楽しそうだ。

い、今のなんだったのかな。
トワと見つめ合っちゃって、どうしたの、あたし!
急に恥ずかしくなって、カッと頬に熱がこもった。


「ジュゴンって、なんで人魚って言われてるんだろうね。どう見ても、人魚じゃないよね」

「う、うん。違うよね。なんでかな」


真っ赤になったあたしには気付かずに、爽子はニコニコとジュゴンを指差した。

お、落ち着け……。
ただ、目が合っただけだし。

そうだよ、あたしが見てたのだって、一瞬で、トワだって気にも留めてない。


ほら、その証拠に、あたし達のうしろからのんびり歩いてくるトワの視線は、爽子と同じように水の中を泳ぐジュゴンに注がれている。


ドキンドキンドキン


はあ……。
自意識過剰かも。


フルフルと首を振ってると、爽子の手が離れ、少し離れた場所にいた松田君の元へ向かって行った。と、なにやら水槽を指差しては夢中に話をしてる。


「……」


ん?……そう言えば、このふたりは付き合ってるんだよね。
あたし、いない方がいいんじゃないのかなぁ。


そんなことをぼんやり考えていると、にゅっと顔の横に手が伸びてきて、何かが背中に触れた。