正宗さんの前で、視線だけをこちらに向けるのは、紛れもなく爽子だ。


松田くんだけじゃなくて、爽子も……?

なんで……爽子も物の怪憑きなの?

だって変だよ、あたし達、1年間ずっと一緒だった。
雨に濡れたことだってあった。

でも爽子が鳥になっちゃうなんて事なかったはず。
……そうだよ、なかった!



「ごめんね、真子ちゃん……」



泣くのを堪えてる。そんな声。
今にも消え入りそうに言った爽子は薄く笑って、震える手でうなじを露わにした。

そこには、他の人と同じ、桜の花びらが光っていて。
正宗さんはお札を爽子のうなじに添えると、それはみるみるうちに爽子の中に溶けてなくなってしまった。


そして、消えてしまった。
桜の花びら。

まるで今のが嘘だったみたいに、跡形もなくなくなった。




「……」



茫然とする中、戌の郁くん。それからイノシシのナギさんが呼ばれた。



「これで、お花見は終了です。みなさん、ご苦労様でした」



正宗さんはそう言うと、穏やかに微笑んだ。



「はぁ~あ、これでやっと帰れるぜ。もういいんだろ?」

「ええ。どうぞ」

「あ、待ってよ。僕も行くよ!」


カナト君はうーんと伸びをするとそのまま一人でさっさと部屋を出て行った。
その後を、郁君が慌てて追っていく。


「俺もまだ仕事が残ってるから失礼する」


総司朗さんも出て言って、残ったのはあたしとトワ。
それから廉次さんと、正宗さん。

あとは……



「爽子……松田くん……あの、」



言いかけて、なんて言っていいのかわからなかった。