未奈は、ダイレクトメールの差出人を見る。

 差出人の名前こそ、愛おしい人のものではあるけれど、本人が出したとは限らない。

 否、この場合、本人が出した可能性のほうが低いだろう。

 おそらく、彼の友人であるバーテンダーが、手伝いついで、なんとなしに未奈へ送ったに違いない。

 ダイレクトメールの内容は、個展の案内状。

 宮本 幸(みやもと ゆき)の新作が、再び世に現れたのだ。

 未奈は思った。

 ああ、また絵を描けるようになれたんだ、と。

 それは嬉しく感じると同時に、切なく胸を締め付ける事実でもあった。

 ゆっくりと未奈が目を閉じれば、伏せたまぶたの裏側に映る、二年前の光景。

 決して忘れることも出来ない、その愛おしい記憶は、じんわりと目頭を熱くさせた。

 いつもそうだ。
 この記憶は、涙なしで辿ることなど出来やしない――


.