「名前は。」
「え?」
「なーまーえ。」
「あ…、か、片岡柚、です。」
必死に口を動かして、何とか言えた自分の名前。
「あっそ。お前…」
矢野先輩は何かを言いかけた。
しかし、その言葉は聞けなかった。
先輩の頭の上に、ボンッとのせられた厚めのファイル。
「ちょっと、何やってんの。」
そのファイルを手に、先輩の後ろからひょこっと顔を出したのは、生徒会長の桐瀬ルイ先輩。
「痛いし…、なんだよ。」
「こっち手伝う約束。忘れたの?」
「わかってるよ、今いろいろ…」
「早くして。」
そんな会話のあと、先輩は私の腕を離して、桐瀬先輩と一緒にどこかへ行ってしまった。
廊下で一人残された私。
その時、チャイムが鳴った。
「最悪、今日ついてない……」
小さくつぶやき、諦めてゆっくりと教室に向かった。
