「おいっ!」
クラス中の目が、一斉に声のする方に集まった。
私もみんなと同じように見ると…
そこには矢野先輩。
とても不機嫌そうに、ドアに寄りかかって立っている。
「大変、行かなきゃ!」
先輩の機嫌を損ねると、命取りだ…
何を言われるか…
「いいよいいよ。早く行っておいで。」
「ごめんね、優希!」
お弁当を手に、急いで矢野先輩のもとに走った。
「なんだかんだ、楽しそうじゃん。」
走っていった私の後ろ姿を見て、優希は頬杖をつきながら小さくつぶやいた。
誰にも聞こえないくらいの小さな声で。
ターゲットになって二週間。
何事もなく過ぎている。
それどころか、少しずつ。
矢野先輩のひどく冷血な男のイメージを、崩していったのだ。
「ふふふ。その調子その調子。」
私と矢野先輩の姿を見つめる影がある。
どこからか不穏な空気がたちこめ…
そして何か、嫌な気配が…
そのことにはまだ、誰も気づいてはいないのだった。
