【誰かさん視点】

風に乗せられて、甘く漂う花の香。
誰にも染める事の出来ない漆黒を揺らし濁りのない瞳を――夜空いっぱいに広がる星々よりも輝かせて、遠くを見詰める君の横顔。

「……会いたかった」

人混みに飲み込まれそうな君の体を引き上げて、抱き寄せる。
触れると伝わる、君の体温。
人よりも僅かに冷えた、雪に様に白い肌。

伏せていて、余り見えない。
顔、見たいな。
覗き込んだら、不自然かな?

「大丈夫?」

俯く彼女に問い掛ける。
不意に腹部に衝撃が襲いかかってくる。
彼女が俺の腹部を力いっぱい押したのだ。

粗方、急な出来事に驚きを成したのだろうか?

「わっ?!」

気付いた時には遅くて、他の新入生の波に襲われて彼女の姿を瞬く間に見失ってしまった。

「不覚だったな……」

再会が嬉しくて、気を緩めた隙にこれだよ。
悔しくて唇を噛み締めると、僅かに鉄の味が口内いっぱいに広がった。

「ま、いっか。
これからは会いたい時に会えるだろうし

焦らなくても、ね。」