家から学校まで凡そ十五分の道のりを駆け抜けて、私同様新品の衣服に身を包む集団の中へと紛れ込む。
しかし、其れは失敗だったらしい。
浮き足立った気分で集団の中へと紛れ込んでみたけれど――くるしいッ!

馬鹿だ!
そうだ、私馬鹿だった!!

念願の高校に受かった時に両親が号泣する程馬鹿だった。

「もがッ、! 苦しっッ――!!」

集団の中で必死に藻掻く。
自業自得だけど。

っていうか――転ける!!
こんな所で転べば大変な事になる事は目に見えている。
是迄に体験した事のない程の恐怖に襲われて、更に力が奪われた。

「しまっ――!!?」

ガクンッ
膝の力がすべて抜け去り、下に落ちていく感覚。
そして、人の足が、眼前に――

あ、これ終わった。

悟りを開いた時だった。
何かに腕を掴まれ、勢いよく体を引き上げられる。

釣竿によって釣られる魚の気分って丁度こんな感じなのだろうか?

気付けば私は誰かさんの腕の中。
温かくて、良い匂い。
春の匂い、っていうのかな?
何だか、懐かしい。

「大丈夫?」

安堵の息を漏らす私の上から、声が降って来た。
そして、現状をすべて把握すると何だかとても恥ずかしい気持ちになって、顔も見ていない誰かさんを押しのける形になってしまった。

「わっ?!」
「あっ、ごめんなさいっ」

しかしその声は届いたのか届いていないのか。
顔を上げると誰かさんは人混みに飲まれてしまった後だった。
不可抗力とは言え、申し訳ない事をしたと心中で顔も名も知らない誰かさんに対して謝罪と御礼の言葉を繰り返しながら私は人混みをやっとの事で抜け出すことが出来た。

――有難う、誰かさん。ごめんね。