「悠里ッ! 朝よ!!」
入学式から遅刻する気?――

一階のリビングに居る母の声が、
二階の部屋で眠る私の所まで、
其れはまるで銃弾の様に飛んでくる。

続いてカンカンカンッ、と。
おたまでフライパンでも殴っているのだろうか。
金属音が聞こえてくる。

「煩いなぁ」

ベットの中から身体を起こすと、
今迄気付く事はなかったけれど、
一度鳴り始めるとボタンを押す迄止まらない目覚まし時計が私の為に「起きろ、起きろ」と鳴いている。

入学祝いに親戚から頂いた物だけど、
申し訳ない事にこれで目覚めた事は一度もない。

私をいつも起こすのは、どんな目覚まし時計よりも強力な音を発する母である。

寝ぼけ眼を擦りながら、
昨晩母がハンガーに掛けておいてくれた新品同然の制服の前に立つ。

今日から私は之に身を包む事になるのだ

「ブレザーか。」

中学の時はセーラー服だったから、
ブレザーとなると何だか新鮮で擽ったい気持ちになる。

緩む頬を抑えながら、制服を手に取ると下の階からは未だ母の私に対する声が聞こえていたので急いで其れに着替えた。

すべて着用し終える事に時間は費やさなかった。
制服が届いた頃から何度も何度も。
嬉しくて嬉しくて。
着る練習と称して其れを脱いだり着たりを繰り返していたからだ。

いつも最終的に「皺になる!」と母に怒鳴られて止めていたのだけれど、次の日になると何事もなかったかのように其れを再び脱いだり着たり。
そして母の怒鳴り声――それのループ。

しかし、今日からは毎日の様に、怒られる事なく之を着用する事になるのだ。

「悠里!」
「今行くよー!!!」

弾む気持ちを抑える事なく、スキップで部屋を飛び出す。

今日から始まるのだ。
ドキドキワクワクの、新生活が!!