喫茶店は高いからと、篠林刑事は近くのファミレスに私達を連れ込んだ。

 灰川さんが今回の依頼内容について説明し、『三船慎吾』をはじめとする犠牲者の自宅の捜索をさせて欲しいと彼に頼む。

 ここで警察署に向かっていた意味がようやくわかった。


「オイオイ! またかよォ。現場にどう説明するつもりなんだよ! 無理無理! いくらお前の頼みでも無理だね!」


「無理なんですか? どうせ四六時中警備してるわけじゃないんでしょう。それに、もちろんタダでとは言いませんよ」


「なんだよ、そこの可愛い子ちゃんがサービスでもしてくれるってのか? おお?」


 私は灰川さんに隠れるようにして身を萎縮させると、露骨に嫌悪の視線を投げつける。

 ――本当に口の悪い刑事だ。

 単純だが、この人の事は完全に嫌いになってしまった。



「――篠林さん。いつも通りの『取引』をしましょう」


「……ったく。そうくると断りづらいんだよなぁ……。ぜってぇ、こっちの状況見越して言ってんだろ。お前のことだからよぉ……」



 ――取引? 

 篠林刑事は頭をボリボリ掻きながら、なにやら検討を始める。



「――勝算はどのくらいなんだよ?」


「決まりきったことでしょう。10割です。いつもどおり、ね」


「……わかったよ。いつもどおり、『情報』はくれてやる。そのかわり『手柄』は俺のものだぜ」


「はい。いつもどおり『結果』は篠林さんに。『過程』は僕がいただきます」


「正直、今回の猟奇殺人は全く進展がなくてな。お手上げだったんだ。……今日の夜中の1時頃、本件最初のガイシャの自宅にきな。場所くらいはわかってんだろ?」


「――どうも。はい、では今夜現地で落合いましょう」




 ……最低限の事情を話しただけで、あの篠林刑事は全てを理解していたようだった。


 それにこのやりとり。


 どのくらい前からの付き合いなのかは測れないが、明らかに灰川さんの仕事と、その内容の詳細をわかっている。



 舌打ちをしながら千円札を机に投げ、篠林刑事は店を出て行く。


 去り際に「妙な真似すんじゃねぇぞ」。と、これまた悪役台詞を私と白条君に吐き捨てていったのだった。