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「――これが、『ダルマサマ』」
「はい。少しヘンな部分もあるんですけど……」
「……確かに、これは『呪い』にしては腑に落ちない点が多いですね」
灰川さんは画面に張り付くようにしてその詳細を眺めている。
ヘンな部分?
……それよりも今は事件との関連性が知りたい。
「白条君は、どのからこの『ダルマサマ』との関連性を感じたの? ……死体の様相は確認できないし、『箪笥』ってキーワードだけじゃ」
幾重ものサイトを経由してようやく辿り着いた、古今東西のあらゆる呪術を掲載している『怨恨の館』というサイトには、『ダルマサマ』の呪いの方法こそ事細かに記されているのだが……。
「ここ、一般人が閲覧できるような軽いやつじゃなくて、一部のマニアしか知らないようなサイトなんすよ」
「そんなマニアックなサイトの呪いなんて、話題にならないんじゃないの?」
「……それが、今から一週間前に、この『ダルマサマ』を紹介する記事が2ちゃんねるのオカ板に一気に大量に貼りだされて……」
「……なるほど。そうまで騒がれているとなると、君のように考える者も増えてくるのは必然かもしれないな」
少し俯いてから、白条君は呟いた。
「……俺の従兄弟も、この騒動の被害者なんすよ」
「フう……――ほう」
灰川さんは、欠伸をしながら耳を傾けている。
「別に対して親しかったわけじゃないんすけど、俺と同じで『コッチ』方面にのめり込んだ人だったみたいで。久しぶりに連絡がきたと思ったら、突然……」
「彼はなんて?」
「あれは多分、死ぬ寸前の電話だったんだと思います」
――『俺は呪われてる。慎也、箪笥だ。箪笥に気をつけろ』。
「それだけ言い残すと、雑音と共に通話は途切れました」
「……あなたの従兄弟って、もしかして」
「『三船慎吾』ですよ。この一連の猟奇殺人の最初の被害者です」
私は言葉を失った。
さきほどまでの態度からはそんな背景を全く感じることができなかった。
言われてみれば、確かに面影があるような気もするが……。
「なるほど。だいたいの事情は飲み込めました。大変でしたね」
流すように、灰川さんが言う。
その視線は、先程からずっと『ダルマサマ』を紹介しているサイトの画面から離れていない。
ようやく画面に張り付いた顔をこちらに向けたかと思うと、ソファーに腰掛けながら飄々とした面持ちで言い放った。
「それで? 白条君。君は僕に何を求めるのですか?」