「美亜、しばらく帰りが遅くなるから、先に寝ててな?」
玄関で靴を履きながら、凌祐はそう言った。
「遅くなるって、何時頃?」
「う~ん。ちょっと分からないけど。じゃあ、行ってきます」
凌祐は軽く手を上げると、玄関のドアを閉めたのだった。
“行ってきますのキス”すらない。
「やっぱり変…」
突然、思い出した様にお守りの話をしたり、子供の話をしたり。
明らかに様子が変だ。
そして、帰りが遅くなるというセリフ。
敦貴の言った通り、仕事を口実に、凌祐の時間は不規則になってもおかしくない。
まさか、本当に佐倉さんと過ごすのか。
疑惑の念が、ふつふつと沸き起こる。
その時、携帯が鳴った。
見るとそれは、圭祐からの電話だ。
「もしもし、圭祐!?」
「おお、どうしたんだよ美亜。そんなに慌てて」
圭祐からの電話は、私には癒し。
本当は敦貴より、圭祐に相談したかった。
だけど、敦貴から情報を聞いたなどと説明出来ない限り、圭祐にも相談は出来ないのだった。
「あ、ううん。ちょっと、懐かしいなと思って」
すると、電話口の圭祐は笑った。
「ついこの間、会ったばかりだろ?そういえば佐倉さん、妊娠したんだってな。ビックリしたよ」