入ってきたのは、早瀬先生だった。




「おーいお前ら席に着けー。」



ざわつきが残りながらも、散り散りになって座っていく生徒たち。


私は、先生の姿を見た瞬間、胸の鼓動がドクンと鳴った。


なぜ鳴ったのかは、よく分からない。





「3年F組の担任になった早瀬浩一です。この学年を担当したことは今までに無いから知らない人が多いと思う。でも、この1年はみんなにとって最後の高校生活だ。少しでも良いものになるように、担任としてできる限りのことをしてやりたいと思う。未熟なところもたくさんあるだろうけど、よろしくな。」



思わず先生のことをじっと見つめていると、こっちを向いた瞬間目が合った。

二重の、キリッとしているけれど優しそうな瞳だった。


すると、何かを思い出したようにまた話し出す。



「で、あまり俺のことを知らないと思うから軽く自己紹介しようと思うんだけど…俺、こういうの苦手なんだよな……」


そう言って先生は軽くはにかんだ。
生徒たちはみんな、先生を見つめている。



「…年齢は28歳で独身、担当科目は数学…こんなところかな。」



すると、積極的な女子が先生に言った。


「それだけじゃ少ないですよー。趣味とか特技とか、あとは恋人がいるかとか!」


教室中にざわめきが起こる。みんな、興味しんしん。


「趣味かー…強いていうならドライブかなぁ。特技は料理…だと思う…」


すると、教室の各所からおおーっという声が聞こえた。私もびっくり。
この人、料理できるんだぁ。


「っつっても、1人暮らしだから作れてるだけだけどな。」


そう言いながら笑った。
先生は、イメージはクールな感じなのに笑顔は無邪気な感じだった。
それは、とても意外だった。