化学で電子で不思議な彼女

手には真っ赤に染まったハサミを持っている。

「…っ…!?」

言いようのない恐怖に襲われて、思わず後ずさりしようとした。

『動くな。』

だがその声と共に体が硬直する。

『…許さない…、日娘を泣かせる奴なんて、大嫌い…。』

本当、何、コイツ。

人間じゃねえ。

本能でそう直感した。『…今は…警告だけ…しておくね。…これ以上、日娘をおかしくしないで。ボクの大好きな日娘は…あんなに泣き虫じゃないんだ…。』

次の瞬間、もう少女は目の前にいなかった。

俺は膝からがくりと崩れ落ちる。

「…っ…何、なんだよ、今の…っ…。」

落としたスポーツドリンクのボトルを拾おうとするけど、うまく指が動かない。

言う事を聞かない指先をよく見ると小刻みに震えていた。

幻覚、なのか?

廊下にはもう誰もいないし、あんなに素早く俺の前から姿を消せるはずがない。

…うわあ、俺、ついに病み始めた。

なんとかボトルを拾い上げて、ため息。

ごめん、沢嶋。

…俺、お前のそばにいていいのか?