「おっ!姫と王子の登場じゃーん!!!」

大道具係のリーダー、江崎くんがニカッと笑いました。

頭に巻いている白いタオルが夏に日焼けした肌によく似合うなあ。

「ごめん、セット予定よりも遅れてるんだわ!ぱぱっと終わらせっからお前らそこらへんで練習してろ!」

江崎くんはそう言うと、「おーい、急ぐぞ!」と周りの子に声をかけた。

あっという間にのどかな村の風景が出来上がってゆく。

ここが、始まりの舞台。

赤ん坊として生まれた私が、魔女ゴーテルに奪われるまでの場面。

背景は重ねて貼られ、舞台転換の時に大道具係の子達が素早くはがして背景を変えるらしい。

要するに時間との勝負ですね。

「…あっ!!!佐野君だっ!!!」

周りで会場準備をしていた女の子達がこちらを指差してきゃあきゃあ言っています。

…人気ですね。あなた。

「…沢嶋さん?」

佐野君が優しく聞いてきた。

「…何?」

「川村と喧嘩してたよね、どうしたの?」

…佐野君に言う必要ありませんよね。