夢幻の魔術師ゲン

 顔がない。

 いや、正確には顔が崩れている。

 両親の目が、鼻が、口が、頬がむごく傷つけられ、流れ落ちる流血が生々しく地に落ちる。

『ステ……ラ……』

 かすれた両親の声がステラの耳をついた。

 血まみれの手を伸ばし、血まみれの顔をステラに向け、おぞましさを漂わせる彼らは詰め寄った。

『……どうして……どうしてあなただけ生きているの……。私たち……家族でしょう?』

『お前だけ生きるなんて……許さない。だから、迎えに行くよ……』

 怨念に満ちた両親の声。

 ステラは後ずさる。

『い……いや……』

 恐怖で硬直したステラの背後から、誰かの腕が体に回された。

 あの声の主が、耳元でそっと囁く。

『帰る場所などないよ、ステラ……。今も、これからも、お前は永遠に……一人だ』

『いや……』

 体が震える。

 頬に生暖かい滴が伝わる。

『ーーいやあああああああっ』

 また、いつもの夢。

 あの日から、いったい何度見ただろう。

 心の傷は、まだ癒えない。

「ーーっあ……!」

 衝動とともに、ステラは勢いよく体を起こした。

 動悸がする。

 息が詰まる。

 冷汗が額から流れ出る。

 胸元の衣服を強く握りしめて、ステラは辺りを見回した。

「はぁっ……はぁっ……ここは……」
 
 窓から差し込む月明かりが広々とした室内を照らし、高価な家具や置物が視界に入る。

 ここがようやく知った場所だとわかり、落ち着きを取り戻したステラは安堵の息を漏らした。

「また……同じ夢……」

 もう何度見ただろう。

 両親が亡くなったあの日からほぼ毎日のように見続けるあの夢は、グローナに来たら見なくなるだろうと、心の中で期待していた。

 けれど、変わらない。

 環境が変わっても夢が変わることはなかった。