天より金色の光が、地より暗黒の光が差し込み、各々が美しく滑らかに混じり合うこの場所は、凛として静寂を保つ灰色の世界。

 足場のないこの世界には決められた出入り口など存在せず、瞳に映るのは永遠にも思うかのような地平線。

 ここはどこだろう。

 代わり映えしないこの世界を見るたびに、いつもそんな疑問を抱くが、ステラはこの景色が嫌いではなかった。

 体が羽毛のように軽い。

 道なき道を、一歩ずつゆっくりと歩きながらステラは進む。

「だれ……?」

 前方からこちらに向かって来る15、16歳頃の少年に気がつき、ステラは思わず問いかけた。

 風など吹いていないのに、少年の漆黒の髪はわずかに揺れていた。

 それを不思議に思いつつも美しい少年に目を奪われ、ステラは無邪気に微笑みかける。

「お兄ちゃん、ここに住んでるの? 私ね、たまにここに来るんだよ。でも、誰かに会ったのは初めて。お兄ちゃん、お名前は?」

 だが、少年は答えない。

 ただ、じっとステラを見つめていたかと思うと、彼女と同じ目線まで屈み目をほそめ、長い指でステラの頬から首筋にかけて優しく撫でた。

「もう、お帰り」

「どうして?」

「ここは夢幻の境界。理が働き、夢と幻が混在する世界だ。人が来る場所ではない」

 やがて、少年の姿が、灰色の世界が静かに揺れ、その存在が消えていく。

「君はもうここには来ない。現の世界に戻るといい」