「あそこに見える城が、ルカリオのいる城だ。ここから歩いたら、夜ということもあり、3〜40分位と思う。途中に、予言の家がある。そこへ寄ってから、城へ向かう」

と、ミシェルが説明した。

ミシェルがレジ袋を持ちながら、先に歩き始めると、直哉はレジ袋を1つ取り上げた。

「ありがとう」

ミシェルはすぐにあたし達に背を向け、先に進んだ。

星明かりにそっと照らされている夜道は、周りにあたし達の他には誰もいない。

あたし達はミシェルのあとに続き、森へ向かって歩いた。

「君達の世界は、夜でも人通りが多いな……」

前を歩くミシェルが、振り返りながら、呟いた。

「日本は平和だからだろ……」

直哉も呟くように、返事をした。

「平和が一番いいな。私が君達の世界の過去での、フランスにいた時のルイは、それはもう夜通し乱痴気騒ぎ、明け方に寝て、昼近くに起きて、遊んでるのか仕事してるのか、挙げ句は……」

そこでミシェルは言葉を切った。

「ルイの孫は、可哀想だったな……」

と、ポツリと言った。

あたしはまた前を歩くミシェルの後ろ姿を見ながら、必死に授業で習った世界史を思い出してみた。

そして、授業を行う学校に思いを馳せた。

ゆとり教育の弊害が言われ始め、学校というのは、過熱した教育か、ゆとりのままかどちらかに二分された。

あたしも菜摘も、親の敷いたレールの上を言われるがまま歩いている。

直哉はいいとして、菜摘は本音はどうかわかんないけど、

あたしには、そのレールが重い。熱すぎる。

高校なんて、名前こそ知られてるかもしれないけど、

親と先生の期待は、ただの圧力であり、期待に応えたい気持ちと、本音とで、心が歪みそうだ。

その心のままに、いつか大学から社会に出るのだ。

そんな気持ちの大人が、これから社会に溢れ出るのだ。

同じクラスのあの子、隣のクラスのあの子、上の学年のあの人……あたしと同じように、心がねじ切れそうな子達は、

恋愛に逃げるか、万引きや、タバコ、夜遊びに逃げる。

あたしは直哉がいるから、救われてるけど、先のことなんかわからない。

あたしなんか、22歳の時なんて、ろくでもない大人になってると思う。

そんなことを思いながら歩いているうちに、やがて森の入り口に着いた。

森は高い樹木が連なり、星明かりが届かない。

ミシェルは、ポケットから、折り畳み式のようなランタンを出した。

ランタンの灯りは強く、あたし達4人が歩くのには十分だった。