記憶が戻ったことを知った冬馬兄ちゃんは、一人で病室に来た。


「お土産は?」なんて聞いた私に「え?」と間抜けな返事。

冬馬兄ちゃんは、私に話があって来たんだ。

わかってる。

今度は私、逃げないから。



「……記憶、戻ったんだ?」

「……うん。一晩経ったら思い出した。
事故に遭ったっていう瞬間は記憶に無いんだけどね」

「そっか」



静かな病室。個室だから尚更だ。


廊下では子供の走り回る声がする。


冬馬兄ちゃんは何も言わない。

だから私が言った。



「今度は逃げないから。ちゃんと聞くから」