イヤダ、ハナシテ……!

「聞いてくれ、頼むから」

「イヤッ!離して!!」

「美和っ!」


私の精一杯の力で腕を離そうとする。

けれど男の人の力はやっぱり強くて、私を離してはくれなかった。


目が合った時、私は……――。

冬馬兄ちゃんを叩いていた。


静寂の中に広がる乾いた音。

瞬間、冬馬兄ちゃんの腕の力が弱まり、私はまた走り出すことが出来た。


初めて人を叩いた。

しかも、大好きな人を……。


数メートル離れ振り返ると、冬馬兄ちゃんは立ち止まったまま頬を押さえていた。


ズキッと痛む胸。

でも今更、冬馬兄ちゃんの元には戻れない。


「ごめん」

私は小さく言い、また走り出す。



だけどすぐに私は、走ることをやめていた。

自らやめたわけじゃない。


私は――。