クレヨンの『数学魔法』入門

「あ、オレはウタちゃんにして」
「ウタちゃん?」
「お願いねクレヨン」
「ハァ……………」
 少々押し切られた形で決まった二人のあだ名。
 紫音の思い浮かべていた青春とは少し違ったが、それでもこの学校で唯一話が出来る相手だったため、何か嬉しかった。

「ところでクレヨン。何かオレに用があったんじゃないの?」
「そうだ、今日は部活を休もうと………」
「え!帰っちゃうの?」
「はい……………。いいですか休んで?」
「何か用があるの?」
「それは………………」
 帰りたい理由はもう一つあった。その原因は、この康太。
 康太は根っからの理系大好き人間。そのため、顧問もほとんどこないこの部室で身の危険こそはないが、逆に言えば本当に何も起きない。
 紫音としてはワイワイ話しながら数学が出来たらと思ったのだが、その案を言う前からすでに数学に夢中。