クレヨンの『数学魔法』入門

「早く行きましょうウタちゃん」
「あ、待って。そっちじゃなくってこっちこっち」
「え?」
 依頼人からは店のジャマにならないよう裏口から来るように言われた康太は、そのとおり裏口。
 裏口の方には客は並んではいなかったが、店側にたくさん並んでいたこともあり、声は遠くから聞こえた。


 店の中の厨房は外の騒がしい声をハーモニーするかのようにとにかく慌ただしく、目まぐるしく人が動いている。皆が皆お客様を待たせないという気持ちからか、あせり感がいっぱい。
 二人はそれに圧倒されたのか、何も喋らず何も動けず、右も左もわからないままその光景をじーっと見る事しか出来ない。

「あなたたち誰?バイトの募集はしていなかったわよね?」
 二人の後ろから聞こえた女性の声。その声一つであせり感を癒すようで、先ほどの厨房もどことなく安心感が漂った。