「結婚してください」

もう一度、尚道が言った。

堰きとめていたものが溢れるように息が乱れた。

あたしは生まれて初めて人前でポロポロ涙をこぼしながら、尚道を見つめ、
「馬鹿ね……」
と、何度も呟いていた。

自分を自分らしくリセットするためについた嘘だったのに。

これで本来の自分に戻り、もっと自分にふさわしい男を捜すはずだったのに。

尚道が何も言わなければ、すべて思い通りになったのに。

胸が痛くて、自分の気持ちを立て直すことが出来なかった。