戸惑うような短い沈黙の後、ノゾミさんは
「彼はまだ何もわかってないんです」
と呟くように言った。

「何も、って?」

「男同士のことが」

「そう? けど、高校生でしょ?」

BLの世界で高校生と言えば、口では『イヤだ、イヤだ』と言いながら、もう男同士でヤリまくってる年頃だ。

あくまでも、BLの世界の話だけど……。

「初恋なんだそうです。彼は恋する自分に恋してるだけなんですよ。そんな彼を誘惑して自分のものにすることは簡単だと思います。けど、そんなことはしたくない。彼がいっぱい色んな経験した上で僕を選んでくれたんなら別だけど……」

やっぱりノゾミさんは真面目なのだ。

『彼がいっぱい色んな経験した上で僕を選んでくれたんなら別だけど』という言葉に、何だか胸がじーんと熱くなった。

「そっか……」

それ以外にもう何も言えなかった。



私は眠るまで、ずっとノゾミさんと手を繋いでいた。