「お姉さん、名前は?」
「…唐笠、結」
「結さんね。ちなみに俺は『あんた』じゃなくて沖。沖貴広」
「沖…」
「おーい、貴広ー。いつまで喋ってるんだよ」
「行くぞー」
「はーい。じゃあまたね、結さん」
すると呼ばれた名前に、彼は返事をして手を振り歩いて行く。
ひょっこり現れてあっさりと引き返す。まるでさざ波のようだ、と感じた。
「……」
何度話しても、失礼な男。
(悪かったわね、モテなくて。ていうか結さんなんて馴れ馴れしい…)
失礼すぎて不愉快で、愛想を作る余裕も落ち着いたそぶりも出来ない。
けどそれが、どこか力を抜いて話せている気がしなくもない。
…変なの。不思議な、人。
(沖くん、か)
複雑なその顔で、サラダを一口食べた。