「…え?」
「聞こえなかった?僕、小説家を辞める」
ありえないことを言い出した割に、彼は見たことが無いくらい真剣な顔をしている。
軽い冗談ではないことを、認めざるを得ない。
「この間、お母さんと電話していたよね。聞くつもりはなかったんだ。ごめんね」
あのとき、寝ていると思っていたのに本当は聞いていたのか。
だけど今は、そんなことどうだってよかった。
「昨日、原稿が書き終わったんだ。もうやり残したことはないよ。
次の仕事はすぐには見つからないだろうけど、やれることはやっていくつもりだ」
私に何かを言わせる前にペラペラと話す彼。
そりゃあそうだ、彼は私が喜ぶと思っている。
ほら、すぐに、喜べばいいのよ。
やっと働いてくれる。
両手を叩いて喜べばいいのよ…


