…わたしは、あの時の瑛太と同じことをしてしまったの?
相手の心を深く傷つけ、さらには最悪な事態まで巻き起こしてしまった。


『別れよう』


瑛太の、あの悲しげな声と笑顔が、頭から離れない。

……結局、馬鹿なのはわたしじゃないか。



わたしは、ひたすら涙を堪えた。けれど、やっぱり我慢できなかった。

止めどなく、頬から涙が流れ、下に落ちる。
そしてそれは、すぐに嗚咽に変わった。

あれほど自分で『はっきりさせよう』と思っていたのに、『瑛太なんて』と思っていたのに………。

なぜこんなに、胸が苦しいんだろう?

「ぅ、うぇ…ひっく、え、瑛太ぁ…」


「和架ちゃん」

優しく、暖かい声がわたしを呼んだ。

「…崎田」


崎田は、わたしを見つめる。

「行かなくていいの?」

「え……?」

すると、崎田はいつもの、明るく、一切陰りのない笑顔で、

「僕は、好きな子の…和架ちゃんの幸せを最優先したいんだ。悲しい顔は、見たくないから。だから…」

トンっとわたしの背中を押した。

「行っておいで」


その瞬間、わたしの心に引っ掛かっていたなにかが、スゥッと消えた。


「…うん、ありがとう。崎田」


わたしは涙を拭うと、走り出した。
瑛太の元へ。