数分の間をあけて、耳を支配したのは
薄い笑い声だった。
視界が覆われていても、上総の表情は容易に。そして鮮明に脳裏に思い浮かぶ。

口の端を釣り上げ、薄く目を開いて――狂気的に嘲笑するその姿を初めて目にした時、戦慄した事をよく覚えている。

暫くの間、部屋の中を上総の笑い声が埋めていたが、軈てピタリとその声は止み、小さな溜息の次に淡々と言葉が紡がれ始めた。

「やだなぁ、游暎。そんなに怖いの?
ちょっと縛って、体の自由を奪って――視界を奪っただけなんだけど、そんなに怖い?」

わかっている癖に、
其れをわざわざ口にして問い掛けてくる辺りに上総の性の悪さが滲み出ている。

「聞いてるの? 游暎?」

中々口を開かない俺に痺れを切らしたのか、ほんの僅かに『不機嫌』を垣間見せながら上総が俺を呼びかける。

「聞こえてる
……〝怖い〟っつーよりも、
〝キモチワルイ〟――吐きそうになる」

「吐いてもいいよ?」
「…………」
「外す気はないからさ。
毎回毎回懇願されたから御終い、
それじゃあ、面白くないだろ?」

面白くないのはおまえだけだ。

俺が知ったことではない。

しかし、其の言葉は上総の耳に届く事は決してないのだろう。
彼は自分自身に都合の良い言葉以外を一切受け付けないらしい。
全くもって巫山戯ているとしか言い様がなかったが、俺は其れを否定する権利を持ち合わせてはいない。

黙っていると、ふと上総の声が上から降ってくる。

「うーん、でもそうだな。
ずっとこのままなの『可哀想』だから、選択肢をあげようかな」

今更見え透いた嘘を。
上総はきっと「可哀想」だなんて微塵も思ってはいない。
唯、このまま何もせずに俺の反応を愉しむのにも限りがあると咄嗟に判断を下しただけに違いない。
きっとそうだ。
だがどの様な理由であれ今この状態を何とか出来るのならばその機会を易々逃す訳にもいかない。
口を開くと、乾いた口内を唾液で潤しながら上総に問い掛けた。

「……なんだよ、選択肢ってのは」

「うん。このままの状態を続けるか、
若しくは、明日俺に――――」




           ……は?