熊のヌイグルミ。
キラリと光る鋏の刃。
ネットリと粘着くような笑み。
――やめてよッ!
――其れは僕の大事な、ッッ
伸ばされる腕。
虚空で藻掻く手。
其れでも『願い』は届かない――。
あっ、あ、ああぁ、あぁああああァああアァああぁああぁっぁあぁあああああああああっっぁあああああああああああああああああああアァァァああああぁあぁああ!!!!!!
叫びと、叫びと、叫び。
絶望に打ち拉ぐ少年の前で、少年は笑う
『お前は 』
「――――ぁ゛ッ!!」
勢いよく体を起こすと、額から汗が飛んだ。
顔が熱い。
汗が滲んだ服は重く、気持ちが悪い。
嫌な夢をみた
『夢』よりも『過去』の方が正しい
過去実際にあった事。
短い人生の中で最も絶望に打ち拉がれた日の出来事。
あの日の出来事は、思い出したくない。
――?
不意に俺はひとつの違和感に気付く。
上半身を中心に、体の上に毛布が掛けられているのだ。
毛布なんて、掛けた覚えない。
そもそも眠りに就く予定すら無かったのだ。
「居眠りは終了?」
ゾワッ――全身の毛が逆立つ感覚。
「かず……さ、…………」
「兄を呼び捨て、か。」
相変わらず生意気な子だね――
「ッ!」
首筋を冷たい汗が伝うのがわかる。
受け容れ難い事実。
しかし、今確かに本能的『危険』、そして『恐怖』を味わっている。
糞ッ、こんな事日常茶飯事だろうがッ!
実の兄に臆する自分自身が情けなくて腹が立つ。
日常的にこの『恐怖』を味わっているのだから慣れても可笑しくはない。
しかし毎回の如く上総から発せられるものに俺は臆している。
身動きが取れない。
そして、息が詰まって声が出ない。
――最悪な状況。
「怖いの? 可愛いな。心配しなくてもいいよ。今日〝は〟痛い事するつもりはないからさ。――それとも、何か痛い事されるような事した覚えでもあるの? それで怯えてる?」
濁りのない琥珀色が俺を捉えて離さない。
ゆっくりと、ゆっくりと。
足元に目を落とす事は出来ないけれど、音で分かる。
確かに近づいてきている。
一歩ずつ。
一歩ずつ。
此方に――そして、手を、伸ばして――
「 っ俺に触れんなッ!!」
ばちぃッ 鈍い音と、僅かな痛み。
力強く相手の手を弾いたからか、その反動で此方にくる衝撃も大きかったようだ。
ヒリヒリと麻痺しているかのような痛みに襲われる。
しかし、そのお陰もあって今は〝恐怖〟を感じない。
目の前の男に対して、
上総に対して、
決して臆してなど居ない状態。
嫌に静まり返ってしまった空間には荒々しい吐息が漏れる音だけが微かに響いていた。
キラリと光る鋏の刃。
ネットリと粘着くような笑み。
――やめてよッ!
――其れは僕の大事な、ッッ
伸ばされる腕。
虚空で藻掻く手。
其れでも『願い』は届かない――。
あっ、あ、ああぁ、あぁああああァああアァああぁああぁっぁあぁあああああああああっっぁあああああああああああああああああああアァァァああああぁあぁああ!!!!!!
叫びと、叫びと、叫び。
絶望に打ち拉ぐ少年の前で、少年は笑う
『お前は 』
「――――ぁ゛ッ!!」
勢いよく体を起こすと、額から汗が飛んだ。
顔が熱い。
汗が滲んだ服は重く、気持ちが悪い。
嫌な夢をみた
『夢』よりも『過去』の方が正しい
過去実際にあった事。
短い人生の中で最も絶望に打ち拉がれた日の出来事。
あの日の出来事は、思い出したくない。
――?
不意に俺はひとつの違和感に気付く。
上半身を中心に、体の上に毛布が掛けられているのだ。
毛布なんて、掛けた覚えない。
そもそも眠りに就く予定すら無かったのだ。
「居眠りは終了?」
ゾワッ――全身の毛が逆立つ感覚。
「かず……さ、…………」
「兄を呼び捨て、か。」
相変わらず生意気な子だね――
「ッ!」
首筋を冷たい汗が伝うのがわかる。
受け容れ難い事実。
しかし、今確かに本能的『危険』、そして『恐怖』を味わっている。
糞ッ、こんな事日常茶飯事だろうがッ!
実の兄に臆する自分自身が情けなくて腹が立つ。
日常的にこの『恐怖』を味わっているのだから慣れても可笑しくはない。
しかし毎回の如く上総から発せられるものに俺は臆している。
身動きが取れない。
そして、息が詰まって声が出ない。
――最悪な状況。
「怖いの? 可愛いな。心配しなくてもいいよ。今日〝は〟痛い事するつもりはないからさ。――それとも、何か痛い事されるような事した覚えでもあるの? それで怯えてる?」
濁りのない琥珀色が俺を捉えて離さない。
ゆっくりと、ゆっくりと。
足元に目を落とす事は出来ないけれど、音で分かる。
確かに近づいてきている。
一歩ずつ。
一歩ずつ。
此方に――そして、手を、伸ばして――
「 っ俺に触れんなッ!!」
ばちぃッ 鈍い音と、僅かな痛み。
力強く相手の手を弾いたからか、その反動で此方にくる衝撃も大きかったようだ。
ヒリヒリと麻痺しているかのような痛みに襲われる。
しかし、そのお陰もあって今は〝恐怖〟を感じない。
目の前の男に対して、
上総に対して、
決して臆してなど居ない状態。
嫌に静まり返ってしまった空間には荒々しい吐息が漏れる音だけが微かに響いていた。