七瀬さんじゃなくていいよ

私は壁から背を離して、風助に大きく手を振る。
すると、風助は話していた他の部員を置いて、こっちに満面の笑みで走ってくる。
無駄についている体育館の電灯が、風助に影を作る。
風助が向かって走る方向には、風助自身の影が伸びている。
風助、違うよ。
こっちじゃない、向こうの方向に行かないと、影だよ？
「まいーー‼」
無邪気に走る風助は、私が少し下を向いていても気付かない。
「お疲れ様っ」
私は背の高い風助を見上げて微笑む。
ほんのちょっと、風助もうつむいているように見えた。