「ところでさ、全く鳴らなかったリードとかってどうしてる?」

 しょげた気分を変えようと、晴香が別の話を振ってきた。

 「後輩にあげちゃう。高校入ってからも、中学ん時の後輩にまとめてあげてた。」
 「えらいな、先輩。」
 「一応言っとくけど、男子の後輩。」

 何となく、女子の後輩にあげるのは気が引けた。

それはさておき、鳴らないリードを後生大事に取っておいてもならないだろうというのが、僕の考え方だ。しかし、晴香は全く別の考え方をしていた。

 「私さ、なんかまた後日吹いたら音出るような気がして、それができないんだよね。えらいね、奏太。」
 
 そういう考え方もあるのだろうが、僕には理解しがたいことだった。アンブシェアが変わるということも大してないだろうし、寝かせたらよくなるとか、ワインじゃあるまいし、持っていたところで自分じゃ使えないというオチになるのが見えている。ふーんと晴香の話を聞きながら、新しいリードでロングトーンを始めた。

 「あ!」

 晴香が突然立ちあがって言うもんだから、ビックリしてしまった。

 「なに?」
 「音出なかったリード、奏太だったらいい音出たりするのかな?」
 「そうだな。」