間接キス

 「よかった、相手が僕で。」

 気づいてしまった恥ずかしさも手伝ってか、晴香は一言もしゃべらず、腕の中で下を向いていた。

 「もう一個付け足すと、あげる前にちゃんと水洗いしてから渡してた。それぐらいするのが最低限のマナーかなって思ってさ。だから、昼休みの時、明らかに何も意識せずに、晴香がリードを渡してきたから、すげーいろいろ考えた。」
 「……ごめんね。」
 「いや、いいんだ。中学は女子の先輩後輩だけだったんでしょ?」

 晴香は何も言わずにうなずいた。女子ばかりの環境にいたら、そういうことに疎くなってしまうことも分からなくはない。中学の時は男子のクラリネット吹きがいなかったと聞いていたし、楽器を交換して吹いたりしたことがないような様子だったから、今回のことも、何となく想像がついていた。

 「ねぇ、晴香。僕がどんなこと考えてたか分かる?」

 抱きしめていた腕を解いて、晴香をじっと見た。かぶりを振って分からないと答えた。言うべきか迷ったけれども、正直に打ち明けることにした。

 「あのさ……リードって口にいれるだろ。だから、このリードは、僕の知らない晴香の……その……口の中の感触を知ってるんだなって思った。」

 晴香が顔を真っ赤にして、腕をバシバシ叩いてきた。年頃の男子の頭の中は、そういうことでいっぱいになる時もあるんだって、分かってくれればそれでよかった。

 「さ、帰るか。」

 晴香の手を取って立ちあがった。

 「でも、その前に。」

 僕は晴香の肩に手を置いて、唇にそっとキスした。

「奏太。」
「ん?」
「キスしたかっただけ?」
「うーん…」

半分外れ、半分正解。