時は経ち、吹奏楽部も後輩が入部して、自分達がいよいよひっぱっていくときがきた。


その時の顧問の先生は、二年生のときに来られた若い先生で、生徒には人気があった。


だけど、吹奏楽部の中では、前の先生の存在が大きすぎたせいか、あまり認めていないヒトが多かった。



私もその一人で、やり方も甘くて、こんなんでコンクールで勝てるのかと心配だった。



ひとつ上の先輩たちが引退したあと、話し合いが行われた。


アンケートが配られて、今の部活の不満や希望を書いて集めるというもの。



みんながなんて書いたかはわからない。



だけど、私は顧問にたいしての不満を書いた。友達数人もそう言っていた。



午前中にアンケートは集められ、午後にミーティング。



お昼ご飯を食べて、ふと部室の前を通ったとき、ドアがあいていた。



中には先生が一人、ソファーに座っていた。



座っていたというよりも、ずれ落ちて床に座っていた。



手には白いA4の用紙が複数...アンケートだ。



先生は、用紙を持ったまま、力なく床に座っていた。


その姿を見たときに、聞いたことのないような音が心臓から聞こえた。



罪悪感とも違う、同情とも違う、でも、声がでなくなった。



そして、ミーティングの時間。



部員も先生もなにも話さない。



先に口を開いたのは先生だった。



アンケートは全部読んだ、と。



お前たちの気持ちはわかった...と。



顔が上げられなかった。


声がいつになく小さくて、弱々しかったから。



顔を見るのが怖かったから。



先生はまた少し黙った後に話し続けた。



これやと合奏なんて出来ない、指揮を振ることなんて出来ない、だけど、ここに来た以上はみんなで演奏したいと思うのは俺の勝手か?と。



涙が止まらなかった。何人かの部員も泣いていた。




最後に、
黙ってないで、そろそろ顔をあげてくれよ、と弱々しい声がそう言った。



歩み寄るのはまだ時間がかかる。



でも、その後先生と部員の間の壁は嘘のようになくなり、信頼関係ができた。



そして、私はその顧問に対し、先生という垣根を越えた感情を持ってしまった。