赤い靴

 母から突然の連絡があったのは、俺が、卒業制作に夢中になっていたときだった。卒業制作に夢中になるあまり、睡眠や食事をほとんど取らなくなっていて、我ながら、あの父にこの息子ありだな、と思ったりもしていた。

「お父さんがね、倒れたの」

 突然の知らせ。俺は、目の前が真っ暗になって、持っていた携帯電話を床に落とした。硬い物体が俺の足の指の上に落ち、鈍い痛みを感じる。その痛みが、母の言葉が現実であるということを、俺に思い知らせた。
 
 あんなに夢中になっていた卒業制作を放り投げて、俺はすぐさま新幹線に乗り込み、実家へ帰った。電話で、母が教えてくれた病院へ行き、父と対面する。

 いつものように、夕食後、離れで仕事をしていた父が、真夜中になっても母屋に戻ってこず、心配した母が、離れを見に行くと、そこで父が倒れていたのだという。