伝票をファイルに綴じて、靴を見ようと手に取る。
 まるで、おとぎ話にでも出てきそうな赤い靴。それを手にとって、どこがどう壊れてしまったのかを確認しようと思った。

 -その時。俺は絶句する。

 その赤い靴には見覚えがあったのだ。ずいぶんと履き古されて、何箇所も修理した跡がある。いや、そんなはずはない。この靴を誰かが履いているなんてことは絶対にないはずなのに。

 その靴は、決して、完成しないはずの靴だった。

 未完成だから、誰にも履けないのだ。世に出回ってもいないことを俺は知っている。なのに、俺の目の前には、完成したその靴が置かれている。一体、これは、どういうことなのだろうか?

 俺は、再び靴を手に取り、じっくり観察をする。

―ああ、なるほど。

 俺の前にある靴は、俺が知っている未完成の靴と、デザインは全く同じだったが、機能が全く違っていた。じっくり見ると、その靴が、プロの職人の手によって作られたものではないことが一目瞭然だった。乱雑で、履き心地が悪そうな造り。造りが乱雑だから、何度も壊れて、そのたびに修理をしたのだろう。
 俺が知っているあいつは、こんな乱雑な靴を作ったりはしない・・・。