赤い靴

 3月に専門学校を卒業し、その年の9月に俺はイギリスはロンドンに降り立った。
 初めての海外。ヒースロー空港の湿った空気。不安と期待の入り混じった俺の心は、どうしようもなく浮き立っていた。

 新しい俺の住処は、年季の入った安アパートで、歩くとギイと床がきしんだ。アパートの大家さんはひとなつっこいおばさんで、俺が始めてアパートに顔を見せると、大量のフィッシュアンドチップスをおすそわけしてくれた。
 
 少ない荷物を、アパートに置いて、俺は街に出る。美しい街並み。近代的な建物と歴史の情緒あふれる建物が、うまい具合に共存している。心地いい。俺はそう思った。
 
 新しい街での、新しい暮らし。俺は、高鳴る鼓動を抑えられずにアパートの周囲をぐるりとまわった。美しい街。路地裏にさえも、情緒があふれている。来て良かった。俺は、この街が好きになれそうだった。