赤い靴

 くも膜下出血だった。母が見つけたとき、もう既に父の意識はなく、そしてついに、そのまま、父は息を引き取った。

 それからの日々は、何かと慌ただしかった。必要な手続きを済ませ、お通夜をして、葬式が行われた。
 母は、気丈に動き、お通夜や葬式を取り仕切っていたが、俺はというと、母の手伝いをしてはいたが、自分の体が、自分のものではないような、奇妙な感覚に浸っていた。
 心が、どこか別のところへ行ってしまって、身体だけが、機能的に動いている感じ。俺は、自分に割り当てられた作業を、ただ事務的にこなしていた。俺の心は、どこか遠いところで、考えたり、感じたりすることを放棄していた。

 父の死。それはあまりにも大きな喪失だった。

 父の死から幾日がすぎ、俺と母の生活がやっと落ち着いても、俺は学校に戻らなかった。食事も、睡眠も忘れて靴作りに熱中していたあの頃の情熱がまるで嘘のように、俺はもぬけの殻になっていた。生ける屍。あの時の俺は、まさにそんな状態だった。