これはホンの些細な仕掛けだ。
これから夜になる。
その時、奇襲されたらたまらない。


碧さんがこれから行く場所を指差した。
ソコは森の中だった。


ディーンが片手を上げた。
碧さんが動くのを止めてディーンを見た。
ディーンは碧さんに向けて親指を立てた。


碧さんは頷いた。



ディーンは俺達の行く方向とは反対の林の中に静かに消えて行った。



俺達はドンドン森の奥深くまで歩いて行った。
坂道になっていて登っていくと、足元の離れた場所に光輝く一角があった。



キャットが小声で教えてくれた。

『あれが本部よ。夜になると、影を作らない様に本部全体にライトをあてて、真っ昼間みたいにしてるのよ。私には臆病者のやることみたいに見えるわ。』


すると碧さんが口を開いた。

『小狡くて、虫酸が走るけれど、頭は良いわ。自分を危険に曝さない事に関してはだけどね。』


俺と修利はクスリと笑った。



ガサガサ!!



前方から草を乱暴に掻き分けてやって来る足音が複数人聞き取れた。
俺達は各々バラバラに草むらに身を潜めた。


辺りはもう直ぐ真っ暗になる手前の明るさになっている。
俺はディーンの言葉を思い出した。


『坊や。音には2種類ある。安全な音か、危険な音かだ。』


これは危険な音。
耳を澄ませるのは勿論だが、俺は5感をフル活用するかの様に集中した。


『アハハ!!今回のゲームは俺らが貰う様なもんだな!』

野太い男の声が森中に響くかの様に大きく聞こえた。


『あぁ!!楽勝だろう。アッチのチームと手を結んだが、おとりに使うための道具に過ぎないからな。しかし、今回の最高得点者の女。良い女だな…。』

下品な笑いが響き、俺は怒りを抑えてジッと我慢をして様子を伺った。


どうやら、2人だけの様だったので、ここは飛び出して仕留めた方が良いか、碧さんを見た。
碧さんは人差し指を口にあてて、首を小さく横に降った。


クソッ!!



俺はムッとしたが、ここはブレーンである碧さんの指示に従うのが道理だ。


男達は森を下って行った。
俺達は一定の距離を保ちながら、後に続いていった。


すると、森の中にぽっかりと空間が空いた場所に辿り着いた。
俺は頭の中に叩き込んだ地図を思い出していた。
今は確か、本部から南西4キロ地点に居る筈だ。
その先は川になっていて断崖があるはず。


断崖が後ろ楯になっている筈だから、まんざら馬鹿では無いらしい。


その広場にはゆうに5、6チーム固まっている位の人数が大きな焚き火を囲んでめいめい、話をしたり、食事をしたりしていた。


碧さんが離れるように指示を出した。


俺達はその広場からソッと立ち去り、更に西に500メートル離れた場所に夜営をすることに決めた。
途中、ペイント弾が岩の小箱にあって、修利がそれを取ろうとしたら、キャットに止められた。


『弾は無駄打ちしなければ、私が用意している弾数で充分足りているから、ここにトラップを仕掛けるわ。』


そう言うと、キャットはベルトから細いワイヤーを引っ張りだし、ネズミ仕掛けみたいなモノを素早く作って見せた。


小箱に手を突っ込むとワイヤーに引っ掛かり、箱全体が凶器になり、腕を挟む様にしてあるらしい。


キャットを敵に回さなくて良かった。
キャットは明らかにこのゲームを心から楽しんでいる。
自分が最大限活かせる、このゲームはキャットにとっては絶好の遊び場所なんだ。



そう思うと、ゾクリとした。




夜営場所を見つけた。
大きな柏ノ木の根本に集まった。
碧さんがキャットを見た。
キャットはニヤリと笑うと闇夜に消えて行った。

『敵が近づいた時の為に仕掛けをしに行ったのよ。』

俺は碧さんに言った。

『碧さん。これって紛れもない実戦にしか思えないんだけど。』

碧さんは小さな火を起こして、立ち上る煙は生い茂った枝で分散されて、直ぐに煙が消える様になっていた。


『そうね。弾がペイント弾って所だけ違うけれどね。死者は出てないけれど、今回は分からないわ。』

俺は碧さんを初めて睨んだ。

修利を危険に晒させないのと、碧さん自身が全ての敵から狙われているのだ。


それを淡々と喋る碧さんに初めて怒りを露にした。


碧さんは黙ってそれを受け止めた。

バシッ!!

俺の頭に衝撃が走った!!
振り返ると、キャットがサバイバルナイフを俺の首と鎖骨の間に突き立てて、圧し殺した声で俺に言った。


『良いかい坊や。よーく聞くんだよ。このゲームはお前自身が参加したゲームなんだ。人のせいにするなよ。

碧子さんが今回の最高得点者ターゲットに決まったのは、お前達が参加してから、碧子さんが手助けする為に参加したのを、あのうすら馬鹿が嗅ぎ付けてから、決まったことで、碧子さんは何にも知らなかったのさ。
ガキが生意気言うんじゃないよ。』


キャットの言う通りだ。
俺は見当違いの八つ当たりを碧さんに向けてしまった。

『碧さん。ごめん。』


碧さんはニコリと頷いて、温かいスープを俺に渡した。





俺は未々、ガキでどうしようもない馬鹿だ。