gardenquartz 小さな楽園

キャットと碧さんは隣のバンガローに引き上げた。

俺と修利、ディーンは各々シャワーを浴びて汚れを落とした。


ディーンは上半身裸でタオルを腰に巻いて部屋に戻って来た。
俺と修利はギョットした。
ディーンの体は身体中傷だらけだった。しかも、そんじょそこらの傷では無い。

明らかに銃弾が撃ち込まれた痕と分かるモノから、ナイフで切られた傷痕もあって、肉が盛り上がっていた。


俺と修利も上半身裸でジーパンを履いていただけだった。
自慢じゃないが、俺と修利だって、腹筋が割れてかなり鍛え上げた体つきだと思うが、やはり、ストリートと本物の傭兵の鍛え方が段違いに違う。


ディーンは備え付けの冷蔵庫からビールを取り出し、蓋を開け喉を鳴らしながら一気に飲み干した。


部屋の明かりは消していて、外の月明かりだけの部屋の中だったが、かえってそれが俺を安心させた。
俺はディーンに聞いた。
『何で傭兵になったんですか?』


ディーンは窓辺の椅子にドカリと身を預け、月を見ながら口を開いた。

『俺の家系は代々傭兵家業でな…。俺のオヤジも、オヤジのオヤジも傭兵だった。

小さい頃は人殺しと言われいじめられたりもしたが、俺も自然と傭兵の道を歩んでた。
それしか、思い付かなかった。
俺は平和な生活が出来ない体になってしまってたしな…。』


修利が口を開いた。
『それって、もしかして…。』

修利が言うことを察したかの様に頷いた。

『戦場から帰ってきて、戦場と平和な暮らしのギャップに心が、ついていけなくなっていたんだ。

物音1つ立てても、戦場では命取りだ。しかし、平和な所ではあらゆる生活に音が溢れていた。
俺は怯えながら神経をピリピリと張り積めた状態で、夜も眠れなくなってしまった。

そして、再び戦場に帰ってきたんだ。俺の居場所は戦場だった。』


俺は自然と思ったことをディーンにぶつけた。
『その傷は?』

ディーンは特に気にする様子もなく答えた。
『捕虜になった時とか、戦場での銃撃戦。後は、無鉄砲な若い頃の傷だな。』


そして、月を見ながら少し悲しそうに言った。

『時々、本当に時々、ふと思うことがある。もし、普通の生き方が出来たら、俺の人生はどうなっていたか…。』


そして、軽く鼻で笑って続けた。
『多分。退屈な人生に、俺は耐えられなかったと思う。』


それから、黙ってディーンは月を見ていた。


俺と修利はディーンの後ろ姿を何とも言えない気持ちで見ていた。


ディーンと、もし、違う場所で違う立場で出会っていたら、どうなってたんだろう…。


でも、【もし】はあくまで、仮定の話だし、現実は違うからな。



俺達は各々、心の中の自分と対話をしているかの様に黙ったまま月を見ていた。