碧さん、キャット、俺と修利は他のテントで物色を再開した。

テントの中は見世物小屋みたいにスポンサーを従えているフリー参加者も多数居た。


ごった返す人集りの中ポッカリ人が全く居ないブースがあった。
碧さんは真っ直ぐそのテントに向かっていた。


ブースの中にはやる気の無い男が、酒瓶を持って、座っていた。

碧さんはその酔っ払いに向かって言った。

『Ese hombre sigue vivo?』
(あの男はまだ生きてるの?)




その声に酔っ払いはビクリと虚ろな目から酔いが覚めた様になり、碧さんに答えた。


『Sí. Él estaba esperando por usted.』
(はい。彼はあなたが来るのを待っていました。)



そう言うと、テントの奧に小走りに消えた。

俺は修利に小声で聞いた。
『碧さん、何て言ったんだ?』

修利も小声で答えた。
『わかんねぇ。俺はスペイン語は全くダメ。』

キャットがいきなり俺達の間に割り込んで、教えてくれた。
『碧さん、男を訪ねに来たみたいね。そして、男も碧さんを待ってたみたい。』
俺はキャットに聞いた。
『キャット。分かるのか?』

キャットはサラリと答えた。
『私だって、英語、日本語、スペイン語、中国語くらいは分かるわよ。碧さんほどでは無いけどね。』


俺は碧さんの事を何も知らない事が、俺をイラつかせていた。


奥のテントから人が出てきた。
俺と修利は一瞬ギョッとした。

漆黒の髪がバサリと無造作に顔にかかり、身長は2メートル位だが、スラリとしていて無駄な筋肉が無く、それがかえって2メートル以上有るみたいに見える。

片目に大きな切り傷があり、目蓋がつむった状態だが、もう片方の目はそれを補うほど、キャットより隙がない。

修利がごくりと息をのむ音が聞こえた。