『あんなオヤジだけど…。私のたった一人の親なんだよ。

母親が居た頃はあんなんじゃなかったんだよ。もうあんまり思い出せないけどさ…。

家族で遊園地に行ったんだよね。あたしさ、オヤジと母親の真ん中で笑ってた。

母親が男を作って居なくなってからオヤジ呑めない酒を無理に呑んでさ。私が母親の事を聞く度居たたまれなかったんだろうね。

それから殴るようになっちゃったんだ。』


俺は黙って絵梨佳の話を聞いていた。


絵梨佳は続きを話した。


『オヤジの気持ち何となく分かっちゃうんだよね…。あんなオヤジだけどさ。

ほっとけなくってさ…。でも、最近私が母親に似てきたみたいでさ…。

流石に今回はヤバかった…。マジで…ヤバかった…。』



俺は絵梨佳の事を理解できなかった。
そんなになるまで何で怒んないんだろ。


『もう…。帰るとこ無くなっちゃった…。』
ポツリと絵梨佳が言った。


俺はまだ黙ってた。



カーテンが開く音がした。
碧さんが控え室から出てきてカウンターに入っていった…。


そして何かを書いていた。
俺達は黙っていたが、絵梨佳の目から涙が流れていた…。


碧さんが絵梨佳の側に来てメモを渡した。

『ここ。シェアハウスなんだけれど女の子限定だから安心だし、安全で女の子達も良い子ばかりだから行ってみる?今丁度一人入れるみたいだから。』

絵梨佳が驚いて碧さんの顔を見上げた。

碧さんは優しく笑って言った。
『和樹君の友達なんでしょ?私を信用して。』


絵梨佳はメモを握り締め声を出して泣いた。


俺は碧さんに頭を下げた。
碧さんは静かに口の端を上げて頷いた。


俺は絵梨佳を抱き起こしてシェアハウスに向かった。