俺はバイクを飛ばして家路に着いた。
何時もの公園まで来ると、丁度陽が落ちる頃で夕陽が誰も居なくなった遊具を照らしていた。
俺はバイクを停めて。
何時ものベンチに座り煙草に火を着けた。


丘の上から町の家に灯りが灯っている。
ホッとした。

キャットは今頃何処で何をしてるんだろう?
碧子の話では突然病院から消えてそれっきり行方が分からなくなってしまったらしい。

碧子が俺の耳の宝石を見て言った。
『あの子を忘れないで。あの子はとても良い子だから。』


耳のピアスを指で軽くなぞった。
雫はキャットの涙かもしれない。


暗くなった公園を後にして、家に向かった。
途中で見慣れた背中が見えた。
父親だ。
俺はバイクのエンジンを切り、父親に声をかけた。
『おかえり。父さん。』

父親は振り返り答えた。
『おぉ。ただいま。和樹も今帰りか。』

『うん。』
俺はヘルメットを脱いで、バイクを押して父親と並んで歩いた。


父親と並んで歩くなんてここ暫く無かった。

『夏休みは楽しいか?』
父親が不意に聞いてきた。

『マアマアだね…。
父さん。ここは平和だね。』


父親は前を向いて返事をした。
『平和になったのさ。でも、本当は違うのかもしれないな…。和樹。お前だって色々あるだろう?
それなりにみんな大変なのさ。』


俺はうん。と返事をして黙った。
確かに、父さんの言う通りだ。各々悩みを抱えてる。でも、生きてる。


俺と父さんは黙って歩いた。
けれど、こう言うのも悪くは無い。