軽くパネルに触れて発信ボタンを押す

病院に背を向けながら歩き、虚しく流れるコール音を聞く

数台の車が国道をゆっくりと走っていく

「出ない、か」

諦めた様にスマホをしまいつつつぶやいた言葉が、すぐに闇にのまれていく

ふっと息をつきながらカバンを持ち直して、先ほどよりも早めに歩く海斗の背は、すぐに角を右折して見えなくなった




抱えた膝の横で携帯が静かに振動した

そっと顔を上げると視界に入るのは、見慣れた名前

携帯に手を伸ばすけれど、通話ボタンを押す勇気はない

瞳を伏せて着信を告げる画面を眺めていると少ししてから振動が止み、着信一件という表示に切り替わる

ふー、とついたため息は何度目だろう

膝に額を乗せて息を吐くとそこだけ温かさを感じる

腕を脚の隙間から覗く部屋は、もう暗闇にまぎれ始めていた

と、

「電気位付けたらどうだ。陰湿な」

という声とともにカチッと電気が付けられる

「海斗」

まぶしさに瞳を細めつつ顔を上げると部屋の入り口に帰宅した海斗が立っていた