「よし、海斗、頑張って!!」

私、シフォンケーキつくるからさ、あ、クッキーがいい?

にっこりと見下ろしてくるしるふに

「…いい性格してるよな、しるふって」

呆れ交じり、感嘆交じりに海斗がつぶやいた




もともと海斗のピアノは、母親譲りだ

看護師をしつつ、趣味でピアノを弾いていた母が、看護師を辞めた後さらに趣味を発展させた結果だ

絶対音感のある幼い海斗が母親の弾いていた曲の一部を弾いたことが始まり

それから時々ピアノに触れるようになって、医者になってからは気晴らしと手の運動に弾いている

まさかそこにしるふが目をつけると思わなかったが

「ふふふん」

海斗のピアノに合わせてしるふが鼻歌を歌いながらカシャカシャとボールの中の生地を混ぜている

と、

「……」

「…海斗ー、間違ったー」

目ざとく振り返るしるふに

「黙っとけ。初見で弾けるほど弾き込んじゃいないんだよ」

誰のおかげでこんなことになってるんだ、と軽くにらみを利かす

「海斗がピアノうまいのがいけないんだよ」

なんだそれ…という反論は心の中だけだ