「海斗ー」

とある休日

自宅でゆったりと過ごしていた海斗は、リビングのドアの開く音と元気のいい声にふと振り返る

スリッパをパタパタと鳴らしながらしるふが、ソファに座る海斗ににこにこと近づいてくる

本能的に危険を感じ、海斗は少し身を引く

「どうした」

眉を寄せながら問う海斗に、

「今日はね、お願いがあって来たんだー」

笑みを絶やさずしるふが隣に座る

よからぬ願いであること間違いない

持っていたカバンを開き、中から薄い本を取り出したしるふは、

「はい、これ」

プレゼント、というノリで海斗にその薄い本を手渡す

「…楽譜?」

「そう、海斗に弾いてもらおうと思って」

探すの苦労したんだよー

「自分で弾けばよくないか」

「いーや。私は誰かが弾いてるのを聞いてるのが好きなの。それに海斗の方が私よりもうまいもの」

そうでしょ?としるふが首をかしげる

その笑顔に勝てたことのない海斗は、ふっと息をつく

「あ、そうそう。CDも持ってきたんだー」

海斗の前を通り過ぎ、ステレオにCDを入れて再生する

流れた曲に、ああ、これはしるふが機嫌のいい時によく歌っている歌か、と一人納得する