「あら、黒崎先生、ついに甘いものを克服したの?」

なんで俺がこんなこと

といささか面倒になりながら皿にケーキを取っていると

珍しいものを見たという声で神宮寺が話しかけてきた

お代わりのカクテルを取りに行っていたようだ

「…うちの姫君用ですよ」

最小限の言葉にそれだけで状況を把握した神宮寺が愉快そうに笑う

「一体あいつの胃袋はどういう構造をしてるんでしょうね。今度CTでもとってみますか」

人類の新たな発見があるかもしれない

見ただけで胸焼けしそうなケーキの盛り合わせを神宮寺に差し出す

「医局長、ついでにこれ持ってってください。俺は自分の飲み物を取るために立ったんですから」

有無を言わさずに皿を押し付けて、さっさとソフドリコーナーに向かう海斗の背に

それでも見栄えよくきれいに盛られた皿を片手に神宮司がほほ笑みかけた


今、黒崎病院は医院長不在という状況で営業している

秘書の矢吹が残り、外国に行ってしまっている信次と連絡を取りつつの営業

はたから見ればすごく不思議な状態だ

ERには息子の海斗がいるのだから、早々に海斗を副院長に、なんて声もちらほら

その声が嫌でも聞こえてくる海斗は、徹底して総無視を貫いている

でも、本当は黒崎病院全体が海斗に次期を、と願っていることを知っている

そして、きっといつかその立場に立たないといけないことも