しるふの反応に、言ってよかった、と海斗は肩を落とす

「お前はどこぞの令嬢か」

年上だし、さん付けが普通じゃない?と思っていたしるふは、海斗の一言に

ふと社長令嬢やらを思い出す

確かに彼女たちは海斗さん、と呼ぶ

黒崎を出すと信次とかぶるからだろうが、海斗にしてみればその呼び方自体が拒否反応ものだ

何が悲しくて惚れた女にまでそう呼ばれなければならないんだ

じゃあ、かいとって呼ばないといけないのかー

慣れないなー、と海斗、海斗と心の中で繰り返す

「……気長に待っててください」

心の中で唱えるだけで精いっぱいのような気がして、しるふは思わずつぶやく

「さっきもそういった。しるふ相手に急いだりしないよ」

そんなことしたら目の前で拒否反応のシャッターが下りることが目に見えている

一年越しでやっとここまで来たのに、今までの努力(してたか知らないけど…)を水の泡とかすわけにはいかない

少々遠回りしてもしるふは逃げてはいかないだろう

なにより医局に行けばいやでも顔を合わせるのだから

今まで面倒くさいと思っていたことが、しるふ相手だとそうも思わないのだから

相当しるふに落ちているもんだ、と海斗は自負している

ふ、と息をつく海斗と、その隣で複雑そうな顔をしながら眉を寄せるしるふの背を落ちかけた夕日が優しく照らしていた







少しずつ…   完